トップ > 指導者だより > 春の原体験

指導者だより

« 伝統文化に触れる | メイン | 四十三期スタート »

春の原体験

山村留学指導員 横山みのり

 入園の集いを終え、子どもたちが共同生活に慣れてきた頃、朝食後の片付けを終えた私は、厨房の窓から差し込む日差しに誘われて、勝手口の戸を開けた。すると、途端に暖かな風が手足の間を通り抜け、同時にほのかに甘い香りが鼻先をくすぐった。春の香りだ。

 ふと生け垣の方に目をやれば、地面から生えるフキノトウが一つ。その枯草に埋もれる小さな姿に春の訪れを感じ、私は早速手を伸ばした。よくよく見ればあちらこちらに黄緑色の顔を出している。そのまま暫し手を動かしていれば、前掛けの裾には、こんもりとフキノトウの小山ができあがっていた。
 これだけあればいいだろう。そう思い、厨房へ持ち帰るべくやおら立ち上がれば、かすかに雪形を付け始めたアルプスが目に入った。
 耳をすませば、野鳥のさえずりと側溝を走る雪解け水の音が聞こえてくる。全身を包む暖かさに深く息を吸えば、芽吹く草花の甘い香りと、フキノトウの青い匂いが肺を満たした。
 あまりの心地よさにそのまま立ち尽くせば、野原に寝ころび、大地に身をゆだねた幼少期のかすかな記憶が、緩やかに蘇(よみがえ)ってきた。私はあの時感じた春の心地よさを、大人になった自分でも同じ様に感じ取れたことに気付き、あの記憶も私の原体験の一つであり、原風景だったのだと気付いた。
 今センターで暮らす子どもたちは、大岡の四季に寄り添って生活する中で、いったいどれだけの原体験をし、どれほどの原風景を見つけられるだろうか。彼らの体験の幅を広げる為に、私にできる事はなんだろう。そんなことを考えながら、厨房へ足を向けた。
 私はこの日の自分が感じたように、子どもたちが大人になっても大切だと思える原体験を見つけられるよう、食育の面から彼らの手助けをしていきたいと改めて思う。今日はフキ味噌の作り方を教えてみようか。

写真:わき水と花筏


写真:わき水と花筏














©SODATERUKAI All rights reserved.